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「賃上げ・人件費は人への投資」経団連・筒井新会長が描く成長戦略【Bizスクエア】

経済
2025-07-30 06:30

2025年5月、経団連の新たな会長に日本生命の前会長・筒井義信さん(71)が就任した。非製造業出身の経団連会長は30数年ぶり。日本経済をどのように変えようとしているのか。


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実質賃金上昇への見通しは?

まずは、与党が過半数を割り込んだ【参院選の受け止めと政治への期待】について―


経団連・筒井義信会長(71):
「非常に厳しい民意の表れであると受け止めている。今後政治が不安定化していかないように、重要政策が山積しているので一つ一つ迅速・着実に実行していくことが求められる。政策を前進させるために、政治の安定的な体制の確立を期待したい」


――参院選では物価高を何とかしてくれと【賃金が追いついていない】ことに不満が爆発したような格好になった。


「名目賃金の上昇率が3年5か月連続で伸びてきている。賃金引き上げのモメンタム(機運)は着実に定着をしてきていると我々は受け止めているが、実質賃金がなかなかマイナスから抜け出せない。賃上げをしても消費に結びついていかない。物価上昇率は今4%を超えている。これはコメや食品の割合が大きいわけだが、政府日銀が共同声明で出している安定的に2%程度という物価上昇率に落ち着いていくことができれば実質賃金が安定的にプラス圏に浮上していく見通しを持っている」


好循環の起点は「賃上げ」

では、実現しない【賃金と物価の好循環】をどう進めるつもりなのか。


――好循環を信じてこの3年みんな頑張ってきたが、いつまで経っても実現しないところに不満が高まっている。

経団連・筒井会長:

「好循環は一体どこが起点なんだろうと。どこから回し始めるのかを意識する場合、我々は“賃上げが起点”だと。それが価格転嫁されて経済が拡大基調に入っていく循環を回していく、まさにそれが賃上げだという意識でこれからも取り組んでいきたい」


――2026年春闘も2025年並みの賃上げを実現しなければならないと考えるか?

賃上げ・人件費はコストではなく“人への投資”。人への投資がさらに生産性向上を生むループも作っていかなければいけない。今度の賃上げで価格転嫁がより進むことを前提にすれば、2%の物価上昇率に1%程度の実質賃金上昇率を確保すべく経済界としては取り組んでいきたい。従業員数の7割が中小企業に雇用されている。中小企業の賃上げの原資をどのように確保していくか、社会全体で価格転嫁の風土を浸透させていく」


「生産性向上」に必要なものは?

――企業が成長して生産性を上げていくからこそ賃上げを投資としてやっていくことが可能になる。どうやって企業は生産性を上げ成長していく道筋を描けばいいのか?

経団連・筒井会長:

「生産性向上にはざっくり言って2つある。一つは効率化、コスト削減で、過去何十年と日本の企業が取り組んできた。それとは別に今度は投資をすると。投資にも2つあって、戦略投資、これは設備投資。もう一つの投資が人への投資だと考えている。投資を促進させるために重要なのは“イノベーション”(技術や経営などの革新)。イノベーションが産業競争力を強化し、日本の経済全体を活性化していく。コアなエンジンになるという考え方をしている」


30年間のデフレ時代で、企業経営者が「設備投資や人への投資に消極的すぎた」という反省の声もある。
【失われた30年の反省と日本の将来像】は―


「企業は正直賃上げするよりも雇用の維持に躍起になっていた。こういう時代が長く続いたことは事実。大企業といえども労働分配率が低下してきたと。そういうことは真摯に受け止めなければならない」


そして、筒井会長が口にしたのは、株主の利益を最優先に考える【株主資本主義】から、従業員や顧客、取引先や地域など幅広い利害関係者の利益にも配慮した【ステークホルダー資本主義】への転換だ。


「株主資本主義からステークホルダー資本主義に変わらなければいけない方向性が
出されているにもかかわらず、まだ株主資本主義だなというイメージは強いと思う。設備投資・人への投資、両面の投資を企業の将来に備えて、着々と手を打っているかどうかを投資家にしっかり認めてもらうような、それを通じて社会全体が企業を評価できるような資本主義社会に変えていく必要がある」


「非製造業出身」新会長の強み

――非製造業出身の経団連会長。その意味をどう考えているか。

経団連・筒井会長:

「一つは中長期の視点。生命保険は保険商品も資産運用も非常に長期なので、人材育成も長期視点で行われる。もう一つは日本全体にネットワークを張って全都道府県を訪ねて激励をしてきた。その意味で日本全体の視点を持つということ。“中長期と日本全体”。これは自分のこれまでの仕事の中で染みついてきた行動様式、思考体系だと思っているので、経団連の仕事にも十分生かせるし生かしていきたい。さらに“将来世代への責任を果たす経団連”を大きく掲げて取り組んでいく」


消費増税「すべきと言える地合いにはない」

【税と社会保障改革】についてはどう議論を進めていくべきと考えるのか。


経団連・筒井会長:
「議論の出発点は社会保障における給付がある。一方で一人一人が負担をしている。給付と負担の全体的な構造をしっかり見える化し国民に示す。ここが議論の出発点だと思う。経団連としては、国民の各層の意見が集約されるような会議体、一種の国民会議的なものの創設を目指したいと思っている」


――選挙では消費税減税が支持され政治課題にさえなるようなスケジュール感だが消費税のあり方は?

「消費税は全世代型社会保障を実現するための恒久的な財源で、減税することは将来世代への負担につながりかねないという観点から適切ではないと申し上げてきた。参院選で消費減税の民意が反映されたことは重く受け止めなければいけないので、“今時点で消費増税をすべきと言える地合にはない”。ただ長期・超長期を考えると社会保障の持続可能性、財源の持続可能性を考えた場合、超富裕層への課税強化や所得税の再配分機能の強化、資産課税への着目、さらに企業も応分の負担をしていかなければならない。財源が不足する場合は法人税増税もあり得る」


企業・経団連が行うべきこと

最後に、経団連の役割を聞いた。


経団連・筒井会長:
「時代が大きく変遷している中で、経団連のあり方は産業課題を徹底的に突き詰めていくこと。ただ産業課題を追い求める中で、社会課題に対しても常に配意しながら進めていく必要がある」


――社会課題に企業が適切に対応していくことが、資本主義の持続性につながる?

「ステークホルダー資本主義は、言い換えればサステナブルな資本主義であり新しい資本主義。自社の利益追求だけではない、株主の利益追求だけでもない、様々な社会の中での影響を考えながら企業は経営していくべき。そこがベースにあると思う」


――人への投資をしっかりやることが第一歩と。

「人への投資、GX(グリーン・トランスフォーメーション=化石燃料中心の経済・社会・産業構造からクリーンエネルギー中心へ移行)、地方創生と様々な社会課題に配意しながら多様性の時代に多様な視点を持って経営に当たらなければいけない。経済界を牽引していかなければいけない時代だと思う」


企業が「投資」の他にすべきことは?

取材を終えた播摩卓士キャスターが、一番強く感じたのは「賃上げへのこだわり」だという。


――好循環の起点を賃上げにしなければいけないと。今物価高が来ているので賃上げを追いかけている格好だけど、逆にしななければと。そこは説得力があった。


慶応義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆりさん:
「今、PBR(株価純資産倍率)を上げなければという風潮を政府が作っているが、日本の企業はアメリカに倣って自社株買いをすごくしている。ただアメリカの企業は自社株買いもするが、設備投資も研究開発費も投資する。日本はそこがすごく足りない。なので自社株買いをするよりも、人への投資や賃上げ、設備投資、デジタル投資をするということを経団連としてぜひ話してもらいたい」


――投資を拡大していくこと以外で日本企業に今問われていることは?


白井さん:
「日本の中だけで見ていてはいけない。日本の政府に何かをしてもらいたいという要望よりも、世界の市場を相手にして世界で成功していく。その中に日本があるという発想で企業自体がもっとオープンに国際化して欲しいと思う」


(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年7月26日放送より)


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