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経営の座を追われた「WeWork」創業者の再挑戦。ビジネスを成功に導くユニークなメディア戦略とは?

経済
2025-07-28 16:10

コワーキングスペースの概念を塗り替え、一世を風靡した「WeWork」。その創業者であるアダム・ニューマン氏は、巨額の資金調達とカリスマ性で時代の寵児となりましたが、数々のスキャンダルと経営悪化の末、2023年に会社は経営破綻に至りました。


しかし、そのニューマン氏が水面下で新たな挑戦を始め、すでに成功の兆しを見せていることはご存知でしょうか。彼が次に仕掛けるのは、住居(レジデンス)領域のビジネス「Flow」。WeWorkの挫折から何を学び、どのような戦略でリベンジを果たそうとしているのか。そのユニークなビジネスモデル、特に不動産の価値を最大化する「メディア戦略」に野村高文が迫ります。


<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2025年6月8日の配信「WeWork創業者。密かに始めた次のチャレンジに成功の兆し!」を抜粋してお届けします。


一世を風靡したWeWorkとその挫折

まずはWeWorkについて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。 WeWorkは、単なるコワーキングスペースではなく、「オフィスのコミュニティ」をコンセプトに、洗練された空間と入居者同士の交流を促進するサービスを提供しました。都市部のおしゃれなオフィスで働ける高揚感に加え、各拠点に常駐するコミュニティマネージャーがフリーランスやスタートアップ企業をつなぎ、ビジネス機会を創出する点が大きな魅力でした。


2010年代、WeWorkは大きな注目を集め、中でもソフトバンクグループの孫正義氏がニューマン氏の人柄に惚れ込み、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどを通じて投じた額は、日本円にして2兆円近くにも上りました。


「WeWorkのような企業が世界を変える」ともてはやされる一方で、創業者アダム・ニューマン氏の個性は、薬物やアルコール、パワーハラスメントといったスキャンダルにもつながり、彼は上場を目前にした2019年に経営の座を追われます。


その後、世界を襲ったコロナ禍は「リアルなオフィスは本当に必要か?」という問いを突きつけ、オフィス事業に強烈な逆風となりました。期待先行で膨らんだ時価総額とは裏腹に経営は悪化し、WeWorkは2023年11月に経営破綻しました。彗星のごとく現れ、一時代を築いたものの、成功には至らなかった物語です。なお、日本のWeWorkはソフトバンクの100%子会社が事業を承継し、現在も運営を継続しています。


アダム・ニューマンの再挑戦「Flow」とは

表舞台から遠ざかっていたように見えたニューマン氏ですが、実は新たな挑戦を始めていました。再び不動産関連ビジネス、今度はオフィスではなく住居、つまりレジデンス領域でWeWorkのリベンジを目指す会社「Flow」です。


Flowは公式サイトで自社を「体験ファーストの住宅不動産会社」と説明しています。フロリダなどに展開する物件は、非常におしゃれなデザインが特徴で、単身での入居も可能です。


そのコンセプト通り、共有空間ではヨガなどのイベントや住人同士の交流会が開催され、WeWorkの思想が色濃く受け継がれています。また、物件の管理はすべて専用アプリで完結し、アプリを通じてオンラインコミュニティも形成されるなど、住居に新たな付加価値を与える仕掛けが施されています。


気になる家賃相場ですが、周辺の一般的な物件と比較して法外に高いわけではありません。通常の賃貸物件より少し高めではあるものの、家賃が2倍になるような設定ではなく、提供される付加価値分が上乗せされた現実的な価格帯となっています。


不動産価値を高めるメディア戦略

Flowのビジネスで特に興味深いのが、メディアを巧みに連動させ、ブランドの世界観を構築している点です。


ニューマン氏がメディア「Axios」のインタビューで語ったところによると、Flowが運営するWebメディア「The Flow Trip」は、すでに1万3000人の有料会員を抱え、黒字化を達成しているといいます。このメディアは、上質な暮らしや音楽、アートなどをテーマにしたライフスタイル・カルチャー系メディアで、Flowが提供したい世界観を体現しています。


さらに驚くべきは、紙メディアも手掛けている点です。2024年初頭には、ニューヨーク州モントークを拠点とするライフスタイル雑誌「Whalebone」を買収。「Flow Trip Magazine」としてリニューアル発刊しました。もともとサーファー向けブランドから始まったこの雑誌が持つ世界観を丸ごと取り込み、「私たちが提案したいライフスタイルはこれだ」と提示する戦略は非常にユニークです。この点について、ニューマン氏は次のように語っています。


「メディア資産は、地域社会にとって重要なテーマやイベントについて、会社全体が一致団結するための中心点として機能します。リビングルームに座り、テーブルの上に雑誌を置いて議論を交わし、話す話題を持つことの楽しさは、少し過小評価されていると思います。」


Webコンテンツが主流の現代において、物理的なメディアはコストパフォーマンスが悪いと見なされがちです。しかし、レジデンスという「家」の事業において、「家に置いておきたい雑誌」を自ら作るというアプローチは、空間の価値を高める上で非常に相性が良いと言えるでしょう。


収益化の先にあるブランド価値の向上

メディア運営において、有料会員やPV数の獲得は至上命題とされがちです。しかし、収益化だけを追求するあまり、「このコンテンツは長期的に自社のブランド価値に貢献するのか?」という視点が疎かになるケースも少なくありません。


その点、Flowのメディアは、主軸である不動産事業の価値を高めるために存在する、という明確な位置づけがあります。Webメディアは単体で黒字化していますが、それはあくまで手段であり、最終目的は会員数を数十万人に増やすことではなく、Flowというレジデンスのブランド価値を向上させることなのです。


WeWorkは、その高い企業価値を最後まで正当化できませんでした。しかし今回のFlowでは、現実的な家賃設定や、メディア単体での黒字化など、ニューマン氏がかつての失敗を踏まえた「バージョン2.0」とも言える堅実な手を打っていることがうかがえます。


WeWorkのリベンジとなるこの挑戦がどこまで成長するのか。近い将来、日本のメディアでも「Flow」の名を耳にする機会が増えるかもしれません。


<野村高文>
音声プロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。


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