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日米首脳会談の「合意文書」から読み解く日本の「したたかな戦略」とは?【Bizスクエア】

経済
2025-11-05 06:00

総理就任からわずか1週間でトランプ大統領との首脳会談に臨んだ高市総理。「レアアース」「60兆円規模の対米投資」など、交わされた合意文書から見える日本の戦略とは?


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レアアース開発「一緒に」と持ちかけたワケ

高市早苗総理:
「日米同盟の新たな黄金時代をトランプ大統領とともに作り上げていきたいと願っている」


トランプ大統領:
「日本のためにできることがあれば、私たちは必ず応える」


10月28日に行われた日米首脳会談。
高市総理はトランプ大統領と一緒に大統領専用ヘリコプターに乗り米軍横須賀基地を訪問するなど“親密ぶりをアピール”する形となったが、「目的は十分果たせた」と評価するのは、日米の通商交渉に詳しい細川昌彦さんだ。


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「首脳会談の最大の目的は、トランプ大統領との信頼関係を作ることに尽きる。それは期待以上に十分果たせたと思う」


そして、会談後は日米の関税交渉をめぐる80兆円規模の対米投資に関する文書などにも署名。


<日米で交わされた署名>
▼関税の合意の履行を確認する文書「~日米同盟の新たな黄金時代に向けて~」
▼レアアースの供給確保への協力枠組み
▼造船能力拡大に向けた協力に関する覚書
▼技術繁栄ディールについての協力に関する覚書
▼投資に関する共同ファクトシート


その中で、細川さんが注目する1つは【レアアース】だ。


――中国に対抗する意味でも、日本とアメリカが一緒にレアアースの開発をしていこうという様々な協力が盛り込まれている


細川さん:
「注目なのは<南鳥島沖での開発>。以前から南鳥島周辺の海域には世界最高品位の<超高濃度レアアース泥>があると。2026年から試掘を始めることが取り沙汰されていたが、“高市総理からその開発を日米共同でやろうと持ちかけたら向こうが関心を示した”。これがポイント。南鳥島周辺の海域、排他的経済水域は中国も手を出そうとして、日本の動きをけん制している。中国の動きを睨めば、アメリカを引っ張り込むことはものすごく大事な戦略的な動きだと思う」


「60兆円」投資はビジネスチャンス?

そして、両首脳が署名を交わした中で【ファクトシート】も注目だという。


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「関税の合意での80兆円の投資の話。その候補になりうるような企業リスト、60兆円にものぼる規模の共同ファクトシートを出した」


<日米 投資に関する共同ファクトシート>
▼【分野】エネルギー・AI向け電源開発・AIインフラの強化・重要鉱物等
▼【事業規模の総額】最大3934.5億ドル(約60兆円)
▼【関心を示す日本企業】ソフトバンクグループ・東芝・三菱重工業・IHI・日立製作所・三菱電機・フジクラ・TDK・村田製作所・パナソニックなど


――そもそも日米間では5500億ドル(約80兆円)の投資枠があって、そこに日本の公的金融を入れていこうという話がある。これと、ファクトシートの60兆円は重なっている?


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「一部重なっていると思う。大事なのは『関心を示す』と書いてあって『投資』とは書いていない。日本企業の投資だけではなく、例えばアメリカの企業がAI向け電源の発電所を作ると。そこに日本の関心企業が発電機器を納入するとかそういうものも全部入っている。そして実はそれも、80兆円の対象になりうる」


対米投資5500億ドル(約80兆円)の仕組みは
▼米「投資委員会」が案件検討⇒▼日米の「協議委員会」で協議⇒▼米「投資委員会」の推薦の中からトランプ大統領が投資案件を決定


トランプ大統領が案件を決めたら
▼プロジェクトを管理する「SPV」(特定目的事業体)が設立され
▼その「SPV」に対し、日本の政府系金融機関である「JBIC」(国際協力銀行)や「NEXI」(日本貿易保険)が、出資・融資、民間金融機関の融資保証を行う


細川さん:
「アメリカの投資委員会が選定して、JBIC(国際協力銀行)などが出資・融資をする形だが、SPV(特定目的事業体)は決して日本企業だけに限定されないところがポイント。みんな日本企業がアメリカに投資をする案件ばかりイメージするが、そうじゃなくて、アメリカ企業、場合によっては第三国企業がアメリカに投資する。そこにJBICが融資をするのも80兆円の対象になる。JBICが他国の企業に融資をする理由は、日本企業から機器などを買うという条件がきちんとあるから」


――つまり日本の公的金融でお金が出ていくが、そのお金を使って機器などを買う時に日本の企業から買ってもらえるという構図


細川さん:
「だからこそ『日本企業にとってはビジネスチャンスになりうる』と関心を示している企業がこれだけある。ただし、今のところ純粋にアメリカに投資をする企業もあるし、単に機器を納入するという企業など色々入っているので、それを足し合わせて60兆円というのはあまり意味のある数字ではない」


高市政権が目指す投資分野と一致?

共同ファクトシートでは、投資の分野として▼エネルギー▼AI向け電源開発▼AIインフラの強化▼重要鉱物等とあるが、高市政権が目指しているものと一致してきているのだろうか?


【高市政権の成長戦略】<危機管理投資>
▼AI・半導体▼造船▼量子▼バイオ▼航空・宇宙▼サイバーセキュリティなど


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「ファクトシートの4分野だけでなく、80兆円の対米投資は半導体なども対象になっていて、日本が成長戦略として投資をしようという分野と重なっている。その理由は、放っておいたらアメリカばかりがそういう分野で進んでいって、日本企業がそこに吸い寄せられちゃうと。片や中国もこういう分野に投資をやろうとしている。米中に立ち遅れてはいけないという危機感もあってのことなので、投資対象が日米で重なっているというのはものすごく大事な意味合いがある」


米中首脳会談「完全にアメリカの負け」

日米首脳会談の2日後、トランプ大統領と習主席の米中首脳会談が韓国・釜山で行われた。6年ぶりとなる対面での会談は約1時間40分。そこで交わされた合意内容がー


【中国側】
▼レアアース輸出規制強化⇒1年延期
▼米産大豆の輸入⇒大幅拡大
▼フェンタニル流入⇒対策強化
【アメリカ側】
▼禁輸企業リスト拡大⇒1年延期
▼港湾使用料徴収⇒1年延期
▼フェンタニル関税⇒20%から10%に


また、トランプ大統領は「中国が米国産エネルギーの購入の検討を始めることで合意した」とSNSに投稿。


そして会談後、アメリカに向かう機内の中で中国との首脳会談をこう評価した。


トランプ大統領:(30日)
「今回の会談は10点満点中12点だ」


しかし、細川さんは疑問を口にする。


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「10点満点中12点だと満足げに言っているが、私は“完全にアメリカの負け”だと思う。アメリカもあまり言いたくなくてほとんど報道していないが、9月29日にアメリカが中国に対して出した<エンティティリストの強化>を1年延期させられている」


<エンティティリストの強化>とは、例えば、A社という中国企業が禁輸対象の「エンティティリスト」に掲載されているとする。その禁輸対象をA社だけでなく、「A社が株式の50%以上を保有する子会社」にも拡大するというものだ。


細川さん:
「エンティティリスト強化案は、これまで中国が作ってきた“抜け穴”を防ぐために出したが、これがものすごく効くので中国が怒っちゃった。それで対抗して10月9日にレアアースの輸出規制の追加版を出してきた。4月4日に出した規制をさらに強化すると。結局は首脳会談でエンティティリスト強化もレアアースの強化も一年延期となったが、4月のレアアース輸出規制はそのまま温存される。しかもアメリカ側は一番大事なエンティティリスト強化を1年延期させられて、その1年で中国側はさらなる抜け穴を作る準備もできてしまう。これは相当な譲歩で、明らかにアメリカの負け」


(BS-TBS『Bizスクエア』2025年11月1日放送より)


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