
バレーボールの世界三大大会のひとつ、ネーションズリーグ(VNL)の男子大会が6月10日に開幕。予選ラウンド第3週(7月8日~)は男女ともに大阪で開催される。23年大会では銅、24年大会では銀と2大会連続でメダルを獲得した男子日本代表も、前回はまさかの6位、その後の世界バレーも予選ラウンドで敗退と、苦しいシーズンをおくった。2大会ぶりの表彰台を狙う選手たちの素顔を、自身も中高でバレー部に所属(セッター)し、入社直後の98年から現場取材を重ねてきた、実況のTBS新タ悦男アナウンサーがリポートする(第8回)。
辿り着いた“新しい強さ”
1年間、自分の体と向き合い続けた西田有志(26、大阪ブルテオン)。 その時間は、技術を磨くためだけのものではなかった。
“強さとは何か”という問いに、身体ごと向き合った1年。“分解し、再構築”する。 その作業は、プレーだけでなく、西田自身の“強さの定義”を静かに変えていった。
西田がこの1年で辿り着いた“新しい強さ”について語り始める。
「今まで、僕は『パワー=強さ』だと思い込んでいた。だけど、ボールにインパクト(力)を与える時に、『パワーを出す』、すなわち『押す動作』をどう捉えるのか。直線的にグッと『押す動作』と、『しならせる動作』と、どちらのインパクトが強いか?と考えれば、『しなる力』なはず」
ムチを振るように、全身の連動が最後の一点へと伝わっていく。
西田は、言葉を選びながら続ける。
「だから、僕の中での今の新しい考え方は、『パワーの“上”にキレ(しなり)』がある、ということ。そのキレを出す時はどうするか?ボールを叩く手前を「何分割にもスローモーションに細かく作られている連続の動作」とイメージするようになった。細かく感覚として分かってくるようになった。本当は何年も必要なんですけど、まずこの1年という期間の中では、一つ高いレベルでクリアできた部分だと思う」
この1年で得たものは、 “完成”ではなく“入口”にすぎなかった。
「力と言っても色んな定義がある。力任せに押すのも力。でも、バレーのスパイクやサーブで重要な力は、体がムチのように『しなる力』だったり、スイングの一瞬の『キレの強さ』のこと。どちらのボール速度が出るかといえば、『しなり』。『押し動作』は、この『インパクトの面の点だけの強さ』のこと。昔の僕は、ボールにしっかりと体重を乗せたパワーをどう伝えるか、だけを考えていた。どうしても“絶対に勝とう!”と頭でガチガチになると、体を力で『押し込む動作』が増えていたのが、今までの僕だった」
「1年休まなければ『進化』はなかった」
理論として理解し始めた感覚が、初めて実戦で形になった瞬間があった。
その転機はSVリーグのセミファイナル。
「あ、これか……!」
試合の中で、初めて身体と一致した。そして、分解と再構築は新しい視界を生み出した。
「ボールを捉える空中の『通過点』、ヒットする位置の打点が、昔に比べて圧倒的に高くなっている。昔の自分の助走や、力任せに体を押し込むジャンプで行くと、どうしても打つ瞬間にちょっと打点が低くなってしまう部分があった。相手のブロックに捕まりそうになって、空中で無理やりリバウンドを取りに行くなど、いろいろと無駄なことをコートの中でしていた。今の『しなり』の肉体なら、打点が高ければ、ある程度世界の高いブロックが相手であっても、空中でいくらでも勝負はできる。『ジャンプの打点の高さ』と、セッターとの『テンポ』の2つがコートの上で完璧に揃えば、世界が相手でも、余裕を持って勝負できる。昔の自分に比べたら、今はスパイクの打点の高さも劇的に上がっている。上でしっかり待てている。選択肢も広がって、コートの見え方も広がっている」
その変化は単なる技術向上にとどまらなかった。
「1年休まなければ『進化』はなかった。『自分自身の体のことをもっと深く知る』という作業が、僕にとっては大切だった。僕が、今までの人生で『自分のことをよく知っている』と思っていたけど、実はこれまでは『表面的な自分』しか知らなかった。
“コートで点数を取った”、その結果のスタッツ(数字)でしか出ていない自分しか知らなかった。それが今までの自分だった。自分の肉体を細かく、細かく刻んで見つめ直していく中で、『自分の動きのラグ(ズレ)が一体どこの関節の瞬間にあったのか』というのが、この1年でまず一つ、確実に見つけられた。もっと『自分を知るため』に時間をたくさん使いたい。これまでよりも、より『自分の深部に向き合える』ようになっているから」
「“努力が報われる”という言葉は、少し違う」
“深部の自分”との対話は、やがて“努力”という言葉の意味そのものを静かに問い直す作業へとつながっていく。
「僕は、『“努力が報われる”という言葉は、少し違う』と思う」
「『報われるまで徹底的に正しい努力をし続けるから、結果として報われる』だけであって、もがいている途中の段階では、全然報われない。自分の目には見えない。ただ、見えない中で、報われるための『形』には、少しずつ裏でなっているのかもしれない。ただ、その積み重ねも、自分の『仕組み』と『考え方』と『体の動かし方』の3つがコート上で完璧にフィットしない限り、それはただの『間違った努力』になる」
『努力』が結果として現れるのは、いつもほんの一瞬かもしれない。
その一瞬のために、人はどれだけの時間を積み重ねるのか。
その考え方は、代表を離れた1年間の過ごし方にも表れている。
「代表を休止した1年間、『もし1日でもサボっていたら、多分今の自分はこうはなっていない』。その『1回のサボり』で、積み上げてきたものなんて簡単に自らの手で崩れる。それまで毎日積み上げてきたものを、自分で一瞬にして崩すことになる。だから、いかに毎日を『丁寧に過ごすか』と思っていた。常に僕が口を酸っぱくして言っている『準備』とは、そういうこと。僕は、コート上での『その一瞬の輝きのための準備』を、裏で何百日もしている。それをただ、当たり前にやり続けているだけ」
勝負を分けるその一瞬のために、すべてを『準備』に捧げてきた。
そして、自分を深く知った先に、西田の視線はチームへと向かい始めていた。
「セッターとのクイックやバックアタックの『コンビの精度』は、世界と戦う上で、絶対に必要な部分。コンビの精度の課題が自分の頭の中でパッとクリアになりさえすればいい。あとはティリ監督の言う『フロアディフェンス(レシーブ)』に関しては、日本のディフェンス力なら絶対に素晴らしい状態になる。そこにフロントのブロックの締め方・開け方の関係値や戦術の部分が絡んでくる。
コートの上でバレーを『複雑に考えなくても』、言葉にしてしまえばやるべきことはすごくシンプル。それを実際の激しいラリーの中で体現してやることが、もの凄く難しい。当たり前に自分たち選手もコートの中で今、激しく感じている部分だけど、『シンプルな問題提起(課題の明確化)』を、練習の前の段階で頭の中で押さえておけば、1つのローテーションずつ、コートの中で確実に課題はクリアにできてくる。
物事はシンプルに考えている時の方が、頭としては楽。日々の練習をする分にも、試合の中で何かとっさの行動をする分にも、『シンプルに考えて』おいて、シンプルな軸の中に、人間の肉体の複雑な動きの関係性(連動)だったり、勝負どころのアグレッシブな行動が、後から自然と伴ってくるだけなんです」
これからは「全員が全部のスキルをハイレベルでこなす世界」
「自分たちがコートの上で実際にやっているものは、『お互いのコミュニケーション』。それに質の高い回数の、地道な練習の積み重ね。一つずつ今自分たちにやれる目の前のところを徹底していく。そのために、コミュニケーションを自分たちがコートの中でしっかりお互いに喋ってやっていけば、チームは絶対に勝手に良くなる。コートの中で選手同士が喋るのなんてアスリートとしては当たり前のこと。自分たちが今、特別なこと(チーム作り)をしているかって言われたら、そういうわけじゃない。大会までの時間が無いなりにも、自分たちがやるべきことは毎日100%やれている。そこは自信を持っています」
チームを語る一方で、西田は自らに、チームに求める基準もさらに高めている。
「僕のレシーブの技術に関しては、自分が世界と戦う上での『一つの絶対的な強み(ストロングポイント)』として、コートの上で絶対にやらなければいけない部分。世界の他のオポジットたちとそのレシーブ力を比較してどうこうという部分では無い。ただディグへの強いこだわりが、自分の中に強くある。身長がないからとか、あるからとか、そういうのは言い訳にすぎない。レシーブ・ディグは体格なんて関係なしに、コートに入っている『全員が絶対にやらなければいけないこと』。
日本代表がこれから世界の2m超えの選手たちと本気で渡り合って戦っていくのに、コートに入っている『6人中6人、全員が、完璧にディフェンスができたら、それだけでチームとして絶対に強い』と思う。コートにいる『6人中6人、全員のサーブの威力が抜群に良かったら、それだけで世界を圧倒できる』はず。
これからの世界大会でのバレーはまさにそういうような『全員が全部のスキルをハイレベルでこなす世界』だと思う。『オポジットは点数を取るポジションだから、レシーブはやらなくていい』なんて理由は、チームにとっても自分にとっても1ミリも無い。もっとやらなければ、世界一には届かない。 その感覚が、今の自分を前へ押し出している。コートの中で、パワーだけじゃなくて、泥臭く点数を取る方法や、インテリジェンスあふれるプレーなど、色んなことがある。チームが世界で勝つために自分のプレーが手助けになればいい」
1年前、西田有志は“強さ”を疑った。
そして今も、その問いを自らの身体で追い続けている。
強さとは何か。
その答えを探す“再構築”は、静かに続いていく。
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