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なぜコンビニで服が売れ、書店は全点在庫に踏み切ったのか ヒットを仕掛けたマーケティングの舞台裏【THE TIME,】

経済
2026-11-01 06:00

画期的な手法で新たな価値を創造したマーケターに贈られる「マーケター・オブ・ザ・イヤー2026」(日経クロストレンド主催)。この賞のユニークな点は、ヒットした“商品”ではなく、マーケティングを担当した「人」にスポットライトを当てることです。消費者の心を掴む新たな発想…その中から、注目の3つを調査しました。


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洋服を買いに行く「目的地」になったコンビニ

優秀賞を受賞したのは、「コンビニエンスウェア」で新たな店舗展開を仕掛けた
ファミリーマートのマーケティングチームです。
コンビニファッションの代名詞ともいえる「ラインソックス」は2021年に誕生。SNSで話題となり、Z世代を中心に一気に人気が拡散され、衣料品だけで年間200億円を売り上げる事業へと成長したそうです。


そして今年7月、ファミリーマートは「FAMIMA PARK AZABUDAI」をオープンさせました。この店舗は、「A BATHING APE®」の創業者としても知られるクリエイティブディレクターのNIGO®︎氏が建築デザインや空間演出をプロデュースし、Tシャツやキャップなどが通常店舗の約3倍にあたる約300アイテムの衣料品を取り揃えています。


コンビニの常識を打ち破り、ファミリーマートが目指したのは「コンビニで衣料品を買う文化を作る」こと。


そのアイテムの中には、デザイナー・落合宏理氏が細部までこだわったというキャップやデニムパンツなども並びます。デニムパンツは5990円、この秋冬一番人気だというジップアップパーカーは3990円という手頃さで、店内には試着室も完備されています。


株式会社ファミリーマート・ライフスタイル本部の須貝健彦さんによると、全国に約1万6500店舗あるスケールメリットを活かし、多くの商品を生産することでコストを抑えているといいます。


この取り組みについて、マーケター・オブ・ザ・イヤー2026の審査員でマーケターの鹿毛康司さんは「今までのコンビニは、急なお泊まりやハンカチを忘れた時など、お困り事のついでに衣料品を買う場所でした。しかし、ファミリーマートは『洋服を買いに行く』という新しいお客様の行動を作った」と高く評価します。
その言葉通り、今やファミリーマートの衣料品は海外からの観光客にも大人気です。「フィリピンの友だちへのお土産に」「インスタやTikTokで知った」という声も聞かれ、「ここでしか手に入らない」という価値が、コンビニを“目的地”へと変えているのです。


「期待に応えられない方がリスク」驚異の全点陳列を実現した書店

地方編大賞を受賞したのは、北海道を中心に展開する書店「コーチャンフォー」の、東京都稲城市にある若葉台店。約2000坪(テニスコート25面分)の広大な売り場に、約70万点の書籍が並びます。この広さを活かした前例のない売り場作りが、今回の評価対象となりました。
審査員の鹿毛氏も「ものすごい覚悟と志がある」と絶賛します。


その売り場作りとは、特定の出版社の文庫を“すべて”揃えるというもの。岩波文庫が出版するおよそ2700点の全書籍が、棚の端から端までずらりと並んでいます。
文芸評論家の三宅香帆さんによると「岩波文庫を全部置くなんてありえないことです」とのこと。
通常、売れなかった本は書店が出版社に返品できますが、岩波文庫はそれが難しく、在庫を抱えるリスクが非常に高いためだといいます。


では、なぜコーチャンフォーはそこまでして全点を揃えようと思ったのでしょうか。きっかけは、2年ほど前に見た、オススメのビジネス書を紹介するSNS投稿。若者から数多くの反応が寄せられているのを見て、コーチャンフォー若葉台店・執行役員 統括マネージャーの千葉國政さんは「今の若者は読書離れなどしていない。本を読みたいと思っている」と確信したのです。


この読みは見事に的中。岩波文庫の全点揃えをSNSで発信したところ、若者を中心に多くのお客さんが書店を訪れ、売上は前年の5倍以上に跳ね上がりました。
ほかにもちくま文庫の全1200点など、20以上の出版社の全在庫が揃っています。在庫を抱えるリスクについて千葉氏は、「お客様の期待に応えられないほうがリスクだと考えています」と力強く語りました。


「ぺたぽんしようね」親子の時間を変えた大ヒット日焼け止め

そして、2026年のグランプリに輝いたのは、この夏大ヒットした花王の「キッズスタンプUV」で「ぺたぽん」の合言葉を生み出したマーケティングチームです。


この商品は、肌に押し当てるとかわいらしい肉球型のスタンプで日焼け止めが塗れるというもの。
商品開発の過程をまとめたインスタグラムのショート動画は560万回再生を記録。今年3月の発売以来、40万本以上の大ヒットとなっています。


開発のきっかけは、担当者の花王株式会社・スキンケア事業部・ブランドダイレクターの小林達郎さんの悩みでした。「3歳を過ぎた頃から子どもは日焼け止めを塗るのを嫌がるようになる。これをなんとかしたいと思いました」と話します。そこで考えたのが、単に塗りやすい商品ではなく、「“ぺたぽんしようね”という言葉で、日焼け止めを使う行動を親子のコミュニケーションに取り入れる」というアイデアでした。


この発想が、面倒だった日焼け止めの時間を、親子が楽しみながら使える習慣へと変えたのです。
審査員の鹿毛氏は、「この事例は、単にかわいいものができたというよりも、暮らしが幸せになっています。これこそがマーケティング。グランプリにふさわしい」と、その価値を高く評価しています。


今回受賞した3つは、いずれも従来の常識や枠組みにとらわれず、顧客が本当に求めているもの、あるいは顧客自身も気づいていなかった新たな体験を創造した点で共通しています。「ついで」を「目的」に、「リスク」を「期待」に、「イヤなこと」を「楽しいこと」に。視点を変えることで新たな価値を生み出すマーケティングの力が、今日の消費社会を動かしているのかもしれません。


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