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1兆円市場の「トレカ」経済、熱狂のワケは? トレカブームの源流と「投機バブル」の課題

経済
2025-08-26 06:30

ポケモンカードやワンピースカードゲームのヒットにより、トレーディングカード(トレカ)市場は1兆円を超える規模にまで成長し、過熱ぶりが注目を集めています。なぜこれほどまでに人々はトレカに魅了されるのか。その歴史的背景から、偽造品や投機バブルといった市場が抱える課題まで、リサーチャーのcomugiさんの分析を交えながら、トレカビジネスの最前線に迫ります。


<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2025年8月3日の配信「トレカ熱狂!ビジネスとして学ぶ『トレーディングカード最前線』」を抜粋してお届けします。


1兆円市場の正体とは? 注目される「キダルト」需要

野村:ポケモンやワンピースなど、トレーディングカード市場はますます活況になっています。特に、ポケモン社が公表した世界累計の発行枚数は2024年3月末時点で648億枚以上とのことで、凄まじい勢いを感じます。


comugi:もはや紙幣を刷っているのと大差がないレベルですよね。この比喩は決して間違っていなくて、トレカは需要と供給で価格が成り立っています。


特徴的なのは二次流通市場が活発な点で、街のトレカショップやCtoCでの取引、さらには国境を越えたECサイトでの売買も盛んです。発行枚数という供給をベースに価格が決まる点は、金融に近い概念かもしれません。


野村:やはり市場は拡大しているのですね。


comugi:2023年度の市場規模は1兆円を超えました。これを牽引しているのはポケモンですが、市場が広がった一因は、ワンピースカードゲームなど他のカードゲームがヒットしたことです。


王者ポケモンをワンピースが追い、そこにウルトラマンやゴジラ、ガンダムといった昔からのIPも反応してトレカ化される。これは市場全体が盛り上がっている証拠だと思います。


最近のおもちゃ市場では「キダルト」という言葉をよく聞きます。キッズとアダルトを組み合わせた造語で、要するに子どもの頃に欲しかったおもちゃを、大人になって経済力を持ったことで自由に買える、という現象です。


野村:“大人買い”ができてしまうわけですね。


comugi:そうなんです。懐かしくて買ってしまう。大人、つまり親が子どもと一緒に楽しむような、世代を超えた需要が長く愛されているIPほど存在するのです。


少しトレカから外れますが、ガンダムのプラモデルが非常に売上を伸ばしているのも、このキダルト需要に応えている一例です。単価も昔より上がり、1万円、2万円といった高価なプラモデルも売れています。


日本の「トレカブーム」の源流

野村:日本でこのトレカが発展してきたのは、どういう経緯があったのですか?


comugi:歴史を遡ると、トレカの起源はアメリカで、19世紀後半に紙巻きタバコのパッケージに絵のカードを入れたおまけが始まりです。


野村:結構歴史が古いんですね。


comugi:日本で大きなインパクトを与えたのは1970年代の「仮面ライダースナック」です。カルビーが発売したこのスナックのおまけにカードをつけたところ、1袋20円で1日100万袋も売れる社会現象になりました。これが日本のトレカの起源と言えるでしょう。


そして、対戦ゲーム形式の元祖は、アメリカの「マジック:ザ・ギャザリング」です。1990年代から始まったこのカードゲームが第二次ブームのようなトレンドを作りました。長い歴史の中で、今、トレカは成熟の時期を迎えているのだと思います。


野村:ポケモンが出てきたのは90年代ですが、やはりポケモンという存在が市場を大きく広げたのでしょうか。


comugi:それは間違いありません。IPという概念を作ったのはポケモンの影響が大きいですし、「ポケモンGO」が社会現象になったように、子どもも大人も知っているIPが世界的な市場を形成した影響は計り知れません。


近年では「ポケポケ(Pokémon Trading Card Game Pocket)」というスマートフォンアプリも面白い展開です。これはポケカをスマホで遊べるようにしたアプリですが、パックを開けるまで中身が分からないブラインドボックス形式をデジタル上でうまく表現しています。


これは最近の大きなトレンドですが、フィジカルとデジタルを行き来する、いわゆる「フィジタル」的なアプローチが重要視されていると感じます。


投機バブルに「復刻シリーズ」でコントロール

野村:やはり気になるのは、このトレーディングカード市場がこの先どうなっていくかという点です。


comugi:直近の課題のひとつが、偽造品問題です。高価なカードには当然、偽物が登場します。


ブランド品やスニーカーと同じで、偽造品の鑑定サービスが市場として広がっており、例えばメルカリは有料で鑑定サービスを提供しています。人間の目だけでなく、AIの画像認識のような最先端技術も導入して精度を上げていく動きがあり、市場としての成熟を感じます。


野村:値段が上がりすぎると、バブルのようになることも起きるのでしょうか?


comugi:NIKEのスニーカーが一時期バブル化して弾けたように、ポケモンカードも一度バブルが来て少し落ち着いたタイミングがありました。これはカードを発行する側が、投機的な動きに対して復刻シリーズを出すなどして供給をコントロールしているからです。


一番サステナブルなのは、需要と供給が良い状態で安定し、ゲームを楽しむという本来の価値をきちんと担保すること。投機勢が入りすぎるとコミュニティが崩れてしまうので、その需給バランスをコントロールすることが非常に大事になっています。


野村:そもそも、投機に使われるのは企業側からしたら本意ではないはずですよね。


comugi:そうですね。鑑賞用にコレクションする程度なら健全な趣味ですが、最初から高く売るために買うのは健全ではありません。


この市場をいかに壊さず持続可能にするか。これは、最近話題になったヒカキンさんのカップラーメン「みそきん」が即品切れになり転売された問題にも通じます。SNSで瞬間的に影響を受けやすい現代において、価格という形で顕著に現れるトレカ市場のコントロール方法は、一般のメーカーも学ぶところがあるのではないでしょうか。


二次流通はブランド維持のバロメーター?

野村:一連の取材や調査をしてみて何か感じられたことはありましたか?


comugi:私は金融の世界も見てきましたが、その中でトレカは「オルタナティブファイナンス」、つまりもうひとつの資産という側面があると感じました。CtoCが広がり、あらゆるものが取引される中で、トレカは平たくて薄く発送も楽なので、売買しやすいという側面もあります。


ここから得られる気づきは、企業は自社のプロダクトをアセット(資産)として見た時にどうなるのかを考えなければいけない、ということです。新商品はすぐに値下がりしますが、ブランドがあるものは値下がりしません。


このブランドの維持において、実は二次流通市場がバロメーターになっている側面があると思うのです。だからこそ、こうした市場を無視してはいけないのだと、トレーディングカード市場を見て改めて思いました。


<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。


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