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「ケイゾク」「SPEC」の“奇才”堤幸彦が挑むアジア大会開会式 70歳の演出家が地元・愛知へ熱い恩返し【バース・デイ】

スポーツ
2026-09-19 06:00

32年ぶりの国内開催となった愛知・名古屋アジア大会の開会式が19日、行われる。総監督としてすべての演出を取り仕切るのは、ドラマや映画で数々のヒット作を生み出してきた演出家・堤幸彦だ。


【写真をみる】「映像業界には全く興味がなかった」堤さんの学生時代


その独自のスタイルから“奇才”とも称される堤は、70歳というタイミングで大きな国際イベントの演出を任された巡り合わせについて、照れくさそうに、しかし熱を込めて語る。


「光栄ですよね。それはもう、ありがたや。王道・正統な演出家ではないと思うので、そんな私に飛び道具みたいなお任せをしていいんですかねと、自分でも『大丈夫ですか?』と聞きながらやっていたけど。でも、見たことのないものを作る時代性みたいなものを要求されていたのかもしれない」


1999年に中谷美紀主演で話題を呼んだ刑事ドラマ「ケイゾク」、2000年に脚本・宮藤官九郎、長瀬智也主演でブームを巻き起こした「池袋ウエストゲートパーク」、そして劇場版やスピンオフも作られた2010年放送の「SPEC」など、コミカルとシリアスが交錯する「堤ワールド」で時代を席巻してきた。映画でも人気漫画が原作の「20世紀少年」(2008年公開)をはじめ、約40年間で61作品を制作。年間平均1.6本という驚異的なペースで映画を撮り続けている。


撮影現場では次々とアドリブを加え、現場で作品を作り上げていくのが堤流だ。なぜそれほどまでに働き続けるのか。


「何かを見つけたい。毎回見つかってはいるんだけど、石を収集しているみたいなもので『何か足りないんだよな』と。その都度全力投球なんですよ。もうこれ以上できない、これ以上面白いものを作れないと思うんだけど、作り終わってみると『もうちょっとできたな』と反省する。反省しなくていい作品を撮ったら死んじゃうのかもしれない」


あくなき挑戦を続ける70歳が、今回初めてセレモニーの演出を手掛ける。


「1回しか見られない。編集してセリフを入れ替えたり、音楽を入れ替えたりはできない。そういうことばかり何十年もやっていると、本当にこういう舞台は楽しい」


独創的なアイデアを生み出す源泉と「70歳の過密スケジュール」

堤の日常は、まさに多忙を極めている。複数の仕事を同時に抱え、作品作りのために全国を駆け回る。


「この後もう1つ別作品のリハがあって、夜に新幹線で広島に行って、明日は瀬戸内海で映画のロケハンをしなくちゃいけない。70歳のスケジュールじゃないね」


そう笑いながらも、リハーサル現場に入れば一瞬で真剣な表情に戻り、「スタート!」と声を張る。


日常のあらゆる瞬間からネタを拾い上げることが、彼の創作の源泉だという。


「ネタを拾うみたいなことはありますね。常日頃、道を歩いていても、何をしていても。お好み焼きを食べていて、『広島のお好み焼きってキャベツが自重でジューっと水蒸気を出しながら沈むと甘みが出る。“押すなキャベツ”っていうタイトルで映画が作れないかな』とか。あとは映画を観ることですね。週に1本か2本は必ず。公開されて話題になっている作品はほぼ観ている。自分の映画は絶対に観ない。狙っているところでお客さんが笑っていなかったりするとショックだから…気が小さいんです」


ドラマ・映画・舞台の監督として多くのヒット作を送り出してきた堤だが、幼少期から監督を目指していたわけではないという。


「映像業界には全く興味がなかったですね。大学を中退してどうしようかなと思っていたら、漫画みたいに足元に新聞が転がってきて、そこにテレビのディレクターの募集記事が書いてあって。『何にもできないしサラリーマンにもなりたくない俺だけど、テレビのディレクターならできるかもしれない』と思って映像制作の専門学校に行ったのがきっかけです」


29歳でテレビのバラエティ番組ディレクターとなり、プロモーションビデオの演出などを経て、32歳の時にオムニバス映画の一作で監督デビューを果たす。今年5月には人気小説が原作のサスペンス映画「ミステリー・アリーナ」を、そして6月には原案から手掛けたオリジナル映画「hinata」を公開。「hinata」は主役不在、無名の俳優20人を起用した異色の作品だ。


規模も制作手法も全く異なる2つの映画を同時に作り上げた堤は、監督の役割を「オーケストラの指揮者」に例える。


「技量の違う演奏者がいっぱい集まったのを指揮者がコンダクトしてバランスを取ったり、強弱を決めて感情を作っていく。(指揮者が違うと)同じ譜面でも音は全然違います。東野圭吾さん、横溝正史さん原作の映画がいっぱいあるけど、やっぱり『監督』で見てもらえるようになりたいなと思うし、それを目指して戦っています」


「常人では想像できないことをやりたい」地元・愛知への熱い恩返し

これまでセレモニーの演出依頼はすべて辞退してきたという堤だが、今回の大役を引き受けたのには特別な理由があった。


「これ、名古屋じゃなきゃやってないです。小中高と人格の基本を作る時期を名古屋で過ごして、子どもの頃から見聞きしたものや体験したものがずっと人生の培養液みたいになっていて、今の作品作りに非常に役に立っている。その恩返しをしたい思いはずっとある」


舞台となるのは、名古屋市内にある瑞穂公園陸上競技場。数々の演出を手掛けてきた堤にとっても、屋外での大規模セレモニーは初めての挑戦となる。


「計算され尽くしたショーかと言えばちょっと違うかもしれない。『それは無茶だろ、無理だろ』ということをあえて提案して、常人では想像できないことをやりたい。舞台の演出をしていても、無限に表現する選択肢はある。スタジアムでも真っ暗闇にすることもできるし、真っ暗闇の中に光を1個、点を打つようにもできる。セリフがなくても、音楽という手段を奪われたとしても、やれることはあると思う」


7月中旬、開会式の準備が進む愛知県体育館では、出演者たちが着用する衣装のデザインチェックが行われていた。メルヘン的なイメージのものから和の要素、近未来の要素、“産業の街”愛知を象徴するスーツのようなものまで多種多様だ。からくり人形の衣装を着たキャストに対しては、具体的なアドバイスを送る。


「中に針金を入れて髭みたいに、『八』みたいな形はどう?『八』というのはこの街の象徴でもあって、市のマーク(丸八=名古屋市の市章)でもあるんです。漢字の八みたいになっていると面白い」


リハーサル風景を見て「アベンジャーズ感が出てきた」と話すスタッフに対し、堤は「巨大な学園祭です。そうやって発想しないと。何かに萎縮したり躊躇していたら、なかなか想像を突破しないので。なるべく発想を自由にしていかないと」と笑う。


準備会場となったこの体育館も、堤にとって思い出深い場所だ。


「中学生の時に卓球の国際大会があって。自分も卓球部だったのでここで卓球をやって、世界とスポーツで交流できるというのはとても良かった。高校生の時にはロックバンドを始めたので、ここで数々の外国人タレントを見ては狂喜乱舞した。そういう思い出の地で演出ができるのは地元孝行ですね。最後の地元孝行になるかもしれない」


歌舞伎×巨大ロボット!?中村勘九郎と挑む伝統と未来の融合

7月下旬、千葉県浦安市で堤はさらなる仕掛けの準備を進めていた。


視線の先にいるのは、歌舞伎の伝統演目「連獅子」の姿をした中村勘九郎(44)。さらに、大きな旗を手にして滑らかに動く、巨大なロボットアームの姿があった。


「見たこともないような美しいものを我々は提供する義務があるけれど、同時にどこか自分たちの生活に近いところになければいけない。特にアジアの五輪なわけですから、遠いところでやっている芸術作品ではないと僕は考えている」


伝統と未来、リアルとファンタジーが交錯する堤ワールドの開会式。その幕が上がる瞬間は、もうまもなくだ。


「全然手加減をしたつもりもないし、自分が見たいものを作ったかなという感じがする。それでみなさんが楽しんでくれればいいなと思うし、想像以上にうまくいっていると思います。本番が楽しみです」


(TBSテレビ「バース・デイ」2026年9月12日放送より)


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