
別府大分毎日マラソン(以下別大マラソン)が2月1日、大分市の高崎山・うみたまご前をスタートし、大分県別府市を経由して大分市のジェイリースタジアムにフィニッシュする42.195kmのコースで行われた。“シン・山の神”黒田朝日(21、青学大4年)は2時間07分03秒で全体3位、日本人2位。レース前は「コンディション不良に近い状態」にもかかわらず、東京世界陸上代表だった吉田祐也(28、GMOインターネットグループ)と壮絶なデッドヒートを展開した。改めて、黒田のポテンシャルの高さを示すマラソンになった。
【写真を見る】“シン・山の神”黒田朝日、別大マラソンで日本人2位と敗れるもポテンシャルの高さを改めて示す
マラソン練習に“特化”していなかったことが敗因だが…
青学大の先輩後輩対決は、残り1.4km付近で大きく動いた。給水を黒田が取りに行くことを感じ取った吉田が仕掛け、フィニッシュでは吉田が4秒先着した。勝つために何が足りなかったのか? その問いに黒田は次のように答えた。
「完全にマラソンの経験値の差と、単純にスタミナの部分の差だったかな、と思っています。ラスト1kmを切ってからも、(ラストスパートをしたかった)競技場に入ってからも、自分は完全に脚が止まっていました。マラソン練習に“特化”してやっていないので、そこの差かな、と思います」
最後の1か月に関しては、吉田はニューイヤー駅伝1区(12.3km。1月1日)と全国都道府県対抗男子駅伝7区(13.0km。同18日)、黒田は箱根駅伝5区(山登りの20.8km。同2日)と全国都道府県対抗男子駅伝3区(8.5km)と、駅伝に出場しながらマラソンに向かって行った。週に2~3回行う負荷の高いポイント練習も、1月の2人はほとんど同じだったという。
違ったのは12月までの練習だ。吉田はマラソン練習がメインで、そこに駅伝に向けての練習を組み込んでいたのに対し、黒田は箱根駅伝に向けての練習がメインだった。黒田が“特化”していないと話したのは、その部分を指している。
箱根駅伝後の黒田は疲れがとれず、練習も昨年と比べ上手く行うことができなかった。青学大の原晋監督によれば、全国都道府県対抗男子駅伝4日前に行った30km走は、「むちゃくちゃ悪かった。タイムも悪かったし、もうへとへとで、ようやく走り切った」という。
初マラソンの大阪で2時間06分05秒の学生記録を出したが、箱根駅伝から2か月後だった。「(特に今回は)1か月ではちょっと間に合わない、というところが正直な感想になります」。それだけマイナス要素が多かったにもかかわらず、2時間05分16秒の日本歴代4位を持つ先輩に、4秒差でフィニッシュした。別大は、黒田のポテンシャルの高さを証明するレースになった。
黒田が発揮する“本番の強さ”とは?
練習が不十分でも試合で力を発揮できる選手が、一定数存在する。今の黒田も間違いなくそんな選手の1人。今季の青学大は10月の出雲全日本大学選抜駅伝が7位、11月の全日本大学駅伝は3位。チーム全体のピーキングは、3連勝した箱根駅伝ほどできていなかった。そのなかで黒田は出雲は6区(10.2km)区間賞を、全日本は7区(17.6km)区間賞を、区間2位に大差を付けて獲得した。
別大マラソン前日の記者会見では「この1か月はスタートラインに立てるように、疲労と戦ってきました。今はコンディション不良に近い状態」とまでコメントした。それでも結果を出せるのは「本番での強さ」だと原監督は言う。
「6割くらいの状態ですが、6割全部を出して2時間7分台まで出した。今の状態なら100点満点」
練習が不十分な状態で、どうして現時点の100%を出せるのか。黒田はレース後の会見で次のように話した。
「力を出せた要因はこれまでの経験かな、と思っています。大学では大きく外したレースがなく、試合への持って行き方の経験が、今回にも生きたのでしょう。その部分は試合の距離が伸びたとか、短かったとかで変わるわけではないと思います。今回のマラソンに向けても同じように、レースに向かって行く中で自分の強みが出たのかな。そういうものだと思います」
黒田はマラソン練習に“特化”していないが、青学大の練習全体がマラソンにつながる練習体系になっている。「マラソンに特化した練習はしていませんが、1年を通して距離走を中心に練習しているので、マラソンに対応できるスタミナは付いています」。
留意すべきはその練習でも、青学大は駅伝のスピードに対応し、10000mでも上位10人平均タイムが28分ヒト桁台と、今年の箱根駅伝参加校中2番目のスピードを誇るチームになっている。箱根駅伝に優勝するスピードと、マラソンに対応するスタミナ。両立しにくい2つの要素を、青学大では年間を通して養成しているのだ。
「黒田は2時間3分台のポテンシャル」と原監督
原監督は日本の長距離界が、「マラソンを難しいものにしている」と警鐘を鳴らす。
「40km走何本走って、30km走何分でやってようやくマラソンです、とかね。そういう固定概念はもう捨てた方がいい。関所みたいでしょう。ハードルが高すぎるんですよ。5000mや10000mと同じで、気楽に出るような感覚でマラソンにチャレンジする。若いうちにそれをしておくことが大切なんです。箱根駅伝に(高いレベルで)真面目に取り組んでいるチームの選手なら、それはもう走れます。今のマラソンはスタートラインに立っている時の表情に、わくわく感を感じられない選手が多いんですよ。疲れ切っていて、今から遠足に出かけるぞ、っていう雰囲気が感じられません」
そのスタンスでマラソンに出場しているのが青学大の選手たちだが、“気楽に”というのは箱根駅伝後のマラソンまでの気持ちの持ち方で、箱根駅伝までは高い緊張感や集中力をもって競技に向き合っておく必要がある。前述したように年間を通して距離走を行い、その上で駅伝に必要なスピードも身につけている。緊張と弛緩を高いレベルの取り組みの中で行うことで、箱根駅伝にとどまらず、マラソンに挑戦することを可能にしているのだ。
2回目のマラソンまでは箱根駅伝をステップにした挑戦だったが、今後は黒田もマラソンに“特化”した練習に取り組むことになる。
「黒田はまだ本格的なマラソントレーニングをやっていないので、吉田のような体力はありません。今年の夏はまだ、学生と同じようにしっかり走り込んだ方がいいと思いますけど、彼の持っているポテンシャルは、2時間3分台にあると思う」
その記録がいつになるかは、今後のトレーニングの進み具合次第だが、そのレベルのマラソンに挑戦する日が遠くない将来にやって来る。そう確信させた別大マラソンだった。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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