
■陸上・第20回トワイライトゲームス(20日、日産スタジアム)
【一覧】9月13日開幕『東京2025世界陸上』日程&出場選手
女子400mは松本奈菜子(28、東邦銀行)が52秒41で優勝。8月19日時点のRoad to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)で、この種目の東京2025世界陸上ターゲットナンバー(出場枠)の48人以内には入っていないが、代表選考要項である「ターゲットナンバーに10を加算した順位以内」には位置している。8月27日に決定予定のRoad to Tokyo 2025の最終順位次第で代表入りが決まる。
また青木アリエ(21、日体大3年)は、ペルー国籍だった今年5月に400mで51秒71と、日本記録(51秒75)を上回った選手で、6月に日本国籍を取得した。今大会は海外遠征から帰国直後のため個人種目は欠場し、4×100mリレーに4走として出場した。
日本陸連が設定したリレー候補競技者基準記録を、400m(52秒20)で破っているのは松本と青木の2人。200m(23秒19)で破っている井戸アビゲイル風果(24、東邦銀行)を含めても3人だけだ。青木の男女混合4×400mリレー代表入りも有力視されている。
故障から復帰後のプロセスに好感触
国内強豪選手が揃ったわけではなかったが、松本は2位に10m以上の大差をつけた。優勝記録の52秒41は自己記録の52秒14(日本歴代2位)に迫る好記録だ。走りにも、400mのフィニッシュ前でよく見られるフォームの崩れがなかった。
「前半シーズンの終わりで一度ケガ(その影響で日本選手権は4位)をしたところから、感覚などが戻ってきたので、改善できた部分が出ていたと思います。最後の100mを上手く走れたら、と話し合っていましたが、そこはちょっと耐えられた、くらいの走りでした。もう少しスピードに乗る感じが出せたらよかったですね。前半あっての後半なので、後半がきちんと走れる前半の作り方をすることも必要です。52秒5をギリ切るのではなく、52秒少しくらいのタイムが狙えましたね」
走りの細かい部分では課題が残ったが、故障から世界陸上に向かって行く流れには乗れている。
世界陸上参加標準記録は50秒75で、日本記録とはちょうど1秒差。可能性はゼロではないが、有効期限の8月24日までに突破する日本人選手が現れるとは考えにくい。参加国枠で松本が代表入りする可能性は大きい。松本は過去の世界陸上では、22年オレゴン大会に男女混合4×400mリレーで出場している。
「(Road to Tokyo 2025の)世界ランキングで入ることができず、世界で戦うにはまだ実力不足なのですが、チャンスをもらえるなら、今出せる最高のパフォーマンスということでは、日本記録の更新を世界大会でしたいと思います」
松本は9月3日で29歳になる。この年齢での初代表入りは稀で、それだけで大きな価値がある。だからこそ松本は、出るだけで終わるつもりはまったくない。「個人での代表は初めてですが、そこは強い気持ちをもって臨みたいです」。
女子400m日本記録の51秒75は、松本のチームの先輩である丹野麻美が、08年に出したタイム。400mの世界陸上代表も過去、丹野1人しかいない。丹野は05年ヘルシンキ、07年大阪、09年ベルリンと3大会連続で出場し、大阪大会では準決勝に進出した。
23年ブダペスト世界陸上の、予選各組を3位以内で着順通過した選手の最低タイムは51秒76だった。51秒3台で通過できなかった選手もいたので断言はできないが、松本が世界陸上の予選で日本記録を更新すれば準決勝に進む可能性がある。
海外遠征で前半のスピードアップに収穫
青木が個人種目出場を回避したのは、「飛行機に8回も乗った」という海外遠征から帰国した2日後だったからだ。「着いた日にウエイトトレーニングをして、昨日は普通に練習をしてこのレース(4×100mリレー)に臨みました。(チームは6位だったが自身の)走りは良かったんじゃないかと思っています」と、納得の表情を見せた。
ポーランド1試合、ベルギー2試合を転戦し、記録的な収穫はなかったが、外国選手を目の前で見たことで得るものがあった。
「前半のスピードやストライドの大きさとか、ウォーミングアップも含めて目の前で見て、すごいと思いました。世界陸上にもし選ばれたら、良い経験になることだったと思います」
青木は高校時代に前半を飛ばし、後半で大きく失速した経験があり、その後は前半からスピードを上げる走りができないでいた。51秒71を出した5月の静岡国際は、外側のレーンの松本を追うことで、リラックスしながらスピードを出していた。その後はケガもあってその走りができていなかったが、今回の海外遠征が良いきっかけになった。
「帰国翌日(トワイライト・ゲームス前日)に300mを走りましたが、前半から行けるようになりました。1人でも最初からスピードに乗る走りができたので、海外で得たものが出てきたんじゃないかと思います。動き自体も良くなっていると、先生(日体大・大塚光雄コーチ)から言っていただきました」
代表入りすれば21歳。取り組んでいる自身のレースパターン変更が、外国勢に挑むことで身に付けば今後がさらに楽しみな選手になる。
男女混合4×400mリレーで決勝進出の可能性も
男女混合4×400mリレーに日本が出場した世界陸上は、19年ドーハと22年オレゴンの2大会。ドーハは予選2組8位、オレゴンは予選1組8位と予選でも下位に沈んだ。男子の4×400mリレーはオレゴンとパリ五輪で入賞し、世界で戦うレベルを維持している。
男女混合4×400mリレーでは女子の、世界との差が結果に表れてしまっている。
日本記録は23年アジア選手権で出した3分15秒71で、松本が4走だった。個人タイムの比較では、23年の女子選手2人のシーズンベスト合計は1分46秒86だったのに対し、今季は1分43秒85と3秒01も上がっている。机上の計算ではあるが、女子選手の成長だけで3分12秒70を出す力が今の日本にはある。
松本は男女混合4×400mリレーにも思い入れがある。200mでリレー候補競技者基準記録を破っている井戸は東邦銀行の後輩で、400mで破っている自身と青木は静岡県出身。混合4×400mリレーを走るかどうかは未定だが、同学年の佐藤風雅(29、ミズノ)は男子4×400mリレーの代表常連である。
「自分が関わったり、お世話になったりしてきた方たちが多いので、男女混合ではありますが良いチームで戦えると思います。例年より女子も各々力を付けているので、女子も貢献というか力を出し切って、男子と一緒に良いレースをしていきたいです」
青木はトワイライトゲームスが、青木姓に変わって以後の国内初レースだった。「漢字で自分の名前を見ると、『日本人になったんだ私』って実感が湧きました」と嬉しそうに話した。リレーに対しても「年上の方ばかりになると思いますが、迷惑をかけないようにして、みんなで日本記録を狙っていけたら、と思います」と意気込んだ。
ブダペスト大会の男女混合4×400mリレーは、予選で3分13秒台の2チームが決勝に進んでいる。世界陸上本番で3秒も日本記録を更新することなど、普通はあり得ないが、今の日本にはその勢いがある。男女混合4×400mリレーも、世界と戦う時が来た。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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