
海を砂漠化する厄介者のウニを回収し、独自の技術で蓄養するベンチャー企業がある。“身なし”ウニを再生する、世界一の錬金術とは?
【写真で見る】海藻を食い荒らす“痩せたウニ”がプリプリに…海を守って収益も「一石三鳥」の畜養ビジネス
「中身スカスカ」のウニを商品化
本マグロに、サーモン、サバもクルマエビも、“全て養殖もの”。
大手回転寿司チェーン『スシロー』の大阪・関西万博の店舗では、<未来に続く持続可能な寿司>を掲げ、提供する寿司のネタを全て養殖のものに限定している。
1貫550円ながら「普段食べるウニより美味しい、すごく高級な味」「くせがなくて美味しい」と人気なのは、陸上で養殖したウニだ。
『FOOD&LIFE COMPANIES』商品戦略部 松本昌也さん:
「海洋環境が変化しているなかで、“とる時代”から“作っていく時代”に。ウニは国内外で非常に人気商品なので、安定調達と海に何かしら恩返しができないかと」
その養殖ウニを提供しているのが、『ウニノミクス株式会社』だ。
山口県長門市の青海島には、世界最大規模のウニ畜養施設「KAYOI UNI BASE」があり、建物内にズラリと並ぶ水槽で8万個のウニを生産できるという。
社長の石田さん(47)は、総合商社・大手食品メーカーに20年間勤務し、企業の合併や買収に携わってきた経歴を持つ。
『ウニノミクス』石田晋太郎社長(47):
「僕自身が一次産業をどうにかしたいというのが第一にあって、この会社に飛び込んだ経緯がある。今インバウンドで日本の文化が見直される兆しが出てきているが、せっかく注目されているのにベースとなるものがなくなってきている」
水槽の中にいるのは、元々は“厄介者だった”ウニたち。
海藻を食い荒らし、海が砂漠化する「磯焼け」を起こすだけでなく、身もスカスカで地元漁師たちも手を焼いていた代物だ。
山口県下関市の小串漁港では、地元の漁師6人がウニの回収に協力しているが、84歳で現役の漁師・榎頭和男さんは、かつては海底が見えないほど海藻が生い茂り、身入りの良い赤ウニがたくさんとれたと話す。
榎頭さん:
「昔は箱で40~50枚とれた赤ウニが、今は1枚もとれない。赤ウニが産卵しなくなった。やはり本をただせば温暖化じゃないかな」
山口県西部の沿岸では、20年以上前から増えすぎたウニが海藻を食べ尽くして「磯焼け」被害が深刻化、痩せたウニは商品にならず放置され増え続ける、という悪循環が生まれていた。
陸上養殖のカギは「水」と「餌」
赤ウニに代わって増殖したのが、ムラサキウニ。通称黒ウニだ。
割ってみると食べられる部分はほとんどない状態だが、『ウニノミクス』では、その痩せたウニを、12週間でプリプリの身が詰まったウニに育てて出荷している。
「陸上養殖」のメリットは季節を問わず安定した品質と量、価格でウニを供給できること。そのカギを握るのが【水の循環システム】だ。
海から取り込んだ海水を濾過して固形物を除去。その後、バクテリアを使って水中のアンモニア分を除去し、ウニが理想とする水温に冷却して水槽へ。
水の温度調整でエネルギーをかなり使うので「海に排水してしまうとエネルギーロスになる」とのことで、水は施設内で100%リサイクルされている。
もう一つのカギは【餌】だ。
一見するとドッグフードのような固形の餌で、中身は最高の企業秘密とのことだ。
『ウニノミクス』石田晋太郎社長:
「1990年代からノルウェーの国立研究所が研究していた技術を引き継いで、2015年から我々の方で日本人の味覚にも合うように改良して完成させた餌を使っている。海藻の組み合わせが主原料ではあるが、ウニの生態をきちっと理解した内容になっていたり、養殖の環境できちっと機能するようになっていたりと秘密がたくさんある」
漁師と共存共栄を図る
石田社長は、コスト管理をより強く意識するため、あえて「ウニ工場」と呼んでいる。
『ウニノミクス』石田晋太郎社長:
「ペットを飼うように完璧な状態で飼っているのではコストがかかり過ぎてビジネスとして成り立たない。どれだけの密度でウニを飼うのか、それに対してどれだけの餌をやるのか、どれだけ水質を保つのか。水質を保つにはそれだけの機材が必要になるし、コストのバランスをどれだけ見出すかというところ」
ウニを回収する漁師達も、陸上養殖に期待している。
漁師・本吉貴宏さん(35):
「ウニノミクスとの協業後、すごく海藻の量が増えた。回収した海域のウニの身入りがよくなるくらい。まだまだ磯焼けしているところも多いので、この感じで回復していけば」
磯焼けの地域に新たなビジネスをもたらし、「藻場の再生」と「漁業の活性化」を両立させる循環型モデルが広がっている。
畜養ウニ「結構良い値段で評価」
――『ウニノミクス』という名前はユニーク。どんな思いが込められているのか
『ウニノミクス』石田晋太郎社長:
「ウニとエコノミクス(経済)を組み合わせたもの。環境改善のためにやっているが、経済活動を通してでないと大きな環境問題には立ち向かえないのではないかという思いが込められている」
ビジネスモデルとして目指しているのは
▼地元の漁師が磯焼けの原因となる痩せたウニを回収⇒▼工場で12週間「畜養」⇒▼地域の特産品として販売⇒▼利益の一部をウニの除去に還元し漁師の副収入に、という循環だ。
――ウニを売って商売になり漁師にもお金が入る。厄介者のウニが減り藻場が回復と「一石三鳥」だが、陸上養殖だと施設もいるし水も管理する。結構コストがかかるのでは?
石田社長:
「コストはかかるが年間通してウニに最適な環境を提供してあげられるので、旬に限らずウニを販売できる。そこはお寿司屋さんやお客様から大変評価されている。漁獲量が減る中で、和食ブームで海外の人も食べるようになり、正直結構いい値段で評価もしてもらえている」
――やはり、ウニは単価が高い商品だからこそ成立しやすいビジネスだと
石田社長:
「そこはあるとは思う。あとは、12週間で身を入れる畜養というのも大きいのかなと。やはり他の養殖、サーモンだと18か月とかかかる。しかも赤ちゃんから育てるけど、我々は身の入ってないウニに身を入れるというところに特化しているので」
世界で広がる「海の砂漠化」
ビジネスだけでなく、「藻場の復活」に繋がる意義も大きい。
水産庁の調査によると、日本でも8割の都道府県の沿岸で「磯焼け」が確認されている。
『ウニノミクス』石田晋太郎社長:
「海藻がなくなると小魚が産卵する場所がなくなってしまう。小魚が育たなくなればそれより大きい魚も育たなくなるので、本当に海全体に影響する問題で、もう砂漠化が世界中に広がっている状況」
藻場1ヘクタールの経済価値は約2300万円といわれている。
これは人間が自然から受ける食料や水、気候安定などの恩恵に値するもので、藻場1ヘクタールは熱帯雨林29ヘクタール分、亜寒帯林50ヘクタール分に相当するという。(※nature誌より)
第2の柱は「ブルーカーボン」
そうした中で、『ウニノミクス』が目指す事業領域は2つあるという。
1つは、メインの【ウニの畜養事業】
現在は大分・山口の2拠点だが
⇒2026年中に、山口の9倍規模の工場を富山で稼働予定
⇒スシローの通常店への提供も目指す
――今後は、ウニ以外にも陸上養殖の分野に進出する計画はあるのか
『ウニノミクス』石田晋太郎社長:
「一旦はウニに集中してやっていきたいと思っている。北海道や東北からも声がかかっていて、その横展開を加速していきたい」
もう1つ、石田社長が「大きな柱になる可能性を秘めている」と話すのが【ブルーカーボン・クレジット取引】。
藻場などが吸収したCO2の量を「クレジット」にして企業などが売買する仕組みで、現在は数百トン程度だが、5~6年後には1万トン規模に増える見込みだ。
エネオスや日本郵船など既にクレジットを購入、将来的にクレジットを購入する可能性がある企業との業務資本提携が進んでいる。
こうした『ウニノミクス』のビジネスについて、慶応義塾大学教授の白井さんは-
『慶應義塾大学』総合政策学部教授 白井さゆりさん:
「ポイントは2つある。1つは、藻場を維持したりというのは<生物多様性>と言って、今企業にそれを求める投資家の動きが高まっていて、経済価値をつけようとしている。もしかしたら将来、カーボンクレジットのような形になるかもしれない。もう1つは、(海洋保全などに使途を限る)<ブルーボンド>という社債をアジアでもいろんな国が発行し始めている。そういったいろいろな意味で世界が注目するビジネスだと思う」
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年9月20日放送より)
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