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髙橋藍「知性と遊び心」で世界の壁を越える “1点を取り切る”ために進化したファンタジスタ【実況席から見える世界】

スポーツ
2026-09-05 12:00

28年ロサンゼルス五輪出場の切符を懸け、バレーボール男子日本代表がアジア選手権(9月4~13日)を戦っている。直前のネーションズリーグでは、準決勝のアメリカ戦でフルセットの末に敗れた日本。全体4位となる262得点を挙げた髙橋藍(25)は「勝ち切る力が足りなかった」と振り返る。今大会に向けても「間違いなく最後の1点を取ることが難しい」と語っていた髙橋。3大会連続の五輪へ、“1点”に向き合う若きエースを、自身も中高でバレー部に所属(セッター)し、TBS入社直後の98年から現場取材を重ねてきた新タ悦男アナウンサーが、リポートする(第11回・前編)。


【写真で見る】髙橋選手ら日本代表選手


「ヌガペトになってほしい」

「“自分の力で、チームを勝たせられる絶対的な存在にならないといけない”。ただ自分が打つだけじゃなくて、コートの中でチームをうまく回していける存在にもなっていかないといけない」


それが新シーズンに向けての髙橋藍の決意だった。


男子代表監督ロラン・ティリは石川祐希・髙橋藍の2人をこう呼ぶ。


『勝負師としての本能を持つ選手』


その中には違う役割がある。


「石川はアウトサイドの絶対的なリーダー。精神的な柱、プレーで存在感を出す」


「そして、藍が違う意味でチームにおいて重要なのは、彼が“スピーカー(発信者)”であるという点。彼はゲームを見通す“ビジョン”と、それを実行する“スキル”を兼ね備えている。藍の本能を言葉として発し、話し、予測をチームに伝える役割がある」


「だからこそ藍には“ヌガペト”(フランス代表イアルバン・ヌガペト・東京五輪MVP)になってほしい。ヌガペトは攻撃もしかり、ブロックに出て、サーブで押して、すべてを恐れずにやっている。藍もヌガペトと同じタイプの選手で、レセプションが非常に安定しており、ディフェンスもとても堅実。だから私は、藍にも同じような形でプレーするよう求めている。私は彼に特別なことを要求しているわけではなく、ただ自由にプレーしてほしい。型にはまるのではなく、ルールに縛られるのではなく、ゲームをよく見渡せる選手としての感覚でプレーしてほしい」


“自分だからこそ”の役割

その役割を、髙橋藍自身もはっきりと自覚している。


「『チームとしてここで1点ブレイクしなきゃ勝てないポイント』だったり、『ここは絶対に失点しちゃいけない、落としてはいけないポイント』というところに関しては、自分自身に対しても、周りに対しても、コートの上ではすごく厳しくやっている。実際の国際大会のシビアな本番だと、そのたった“1ポイント(1点のズレ)”のせいで、苦しい展開に自分たちからハマっていってしまったり、格下のチームに足をすくわれたりする部分はすごく多い。そこの1本のクオリティは、自分たちが世界で勝つためには、必ず徹底して、泥臭く毟り取っていかないといけない大事なポイント。もしチームの歯車が狂いそうになった時の、コートの“雰囲気の引き締め”であったり、一気にまたメンバーみんなの集中力を、コートの中で“ガッと1つの矢印に持ってこられる”、そういった戦術的な声掛けは、確かに、今の若いこの日本代表のメンバーの中では、“自分だからこそ、100%完璧にできる役割だな”とは思っている」


チームにスイッチを入れられる選手になるために。


「ヌガペト選手も、コートの中の“お祭りのような盛り上がる雰囲気”や、ここ一番の“勝負師”として極限のところで、誰も真似できないような“ファンタジスタ”みたいなプレーを平気で決めてくる。確かにそういうプレースタイル、身長2mの海外の壁に対して、“知性と遊び心で戦う”という部分は、まさに“自分だからこそできる、自分にしかない最大の強み”だなとは思う。監督が僕に対してそうやって本気で期待してくれているなら、もちろんそういった世界一のファンタジスタとしての戦い方は、日々の合宿から強く意識していきたいなと思う」


これが髙橋藍のここぞの1点の取り方。


「世界の身長2m超えの選手たちを相手に、日本代表が“普通の真面目なプレースタイル”をしていても、絶対に勝つことは不可能だと僕は思っている。フェイクセットなども含めて“エンターテイナー”的なところは、単に見ている人を喜ばせるためだけじゃなくて、誰も見たことがない新しい技や、“日本らしい、常識を覆すプレースタイル”っていうところをコートの上で積極的に出していかないと、間違いなく世界大会での“メダル”っていうところには絶対に繋がっていけないと思っている。自分たちが高さ、パワーで海外に絶対に勝てない分、“バレーの上手さ”とか、ネット際での“細かい引き出しの多さ”とか、そういった知性で戦っていく必要がある」


“日本らしさ”

知性で戦うとはどんなことなのか。


「ひとつとして、相手のスパイカーのストレート側の手の肘を狙ってのブロックアウト。日本代表(チーム)としては、あのブロックアウトの戦術は完全に共通の狙いとして頭に持っている。肘を狙うのは簡単ではない。一歩間違えたら正面でシャットされる大きな“リスク”もある。でも海外の選手は身体が大きいから、僕たちがまともに彼らのブロックの上からスパイクを打ち落とそうとすることは、物理的にほぼ不可能。だからこそ、ブロックの“外側の腕(右肘)”を上手く壁として使ってコート外へ弾き飛ばしていく。そういう“パワーに高さで勝てない日本らしい、知性を使った戦術”をコートの上で僕らが徹底してやっていると、相手の海外のブロッカーも全然レシーブで拾うことができないので、もの凄く日本のブロックアウトを嫌がってきて、精神的にイライラしてストレスを溜めてくる。相手が僕らのブロックアウトを嫌がって、右手の面をグッとと入れてきたり、よりストレート側にキュッと“寄ってきた”ら、その瞬間に、今度は今度で自分が本来一番得意としている、大好きな“インナークロス”の空いた激しいコースに向かって、思い切り100%の力で勝負していける。そういった“相手のブロックの意識を自分たちの技術でコントロールしてハメていくこと”も大事になってくる」


相手がどう反応するかまで含めて、先の一手まで考える。


「また個人として、あえてブロックの隙間に突っ込んで”吸い込み“を狙いに行くのも、自分の中で感覚として増えている。『あ、ブロックの手とネットの距離が数センチ空いているから、強い球を突っ込んだら絶対に相手の腕の中に吸い込むじゃん!』というシチュエーションが見えている。吸い込みって、狙って100%の確率で毎回打てるような簡単な技ではもちろん無い。でも今シーズンの自分の最大の進化として、自分の腕を振り抜く“スイングスピード”が、劇的に上がっているからこそ確率が高くなっている」


世界屈指のブロッカーにも、選択を迫る。


そして、知性に、身体が追いついてきた。


「去年から今年にかけて、“自分の身体のベスト”を見つけるために色んな細かい調整をしてきました。コンディションの食事管理の調整も徹底してやってきた。体脂肪を極限まで減らして、それに伴って、自分の全体の“体重”を減らしながら、筋量は増えている。去年は跳べていない自分を感じていた。世界と対等に戦うために、自分の身体の仕組みを1から作り直してきた。これが今年の僕の覚悟」


それが、今年のVNLで見え始めた新しい髙橋藍だった。


「空中の打点の通過点に関しては、自分の中でも昨シーズンに比べたら、本当に、全然違う感覚をコートの中でリアルに持っている」


1点を取り切るための知性と身体。


「これまでの自分のスパイクのイメージだと、相手のブロックを避けるためにエンドライン奥へ“長く打つ”イメージ自体は頭の中に強くあった。でも、どうしてもジャンプの出力というか、ボールがネットの上を超える時の“通過点そのものが低かった”。だから、長く打とうとしても、相手のブロックの手に途中で引っかかってシャットアウトされるリスクが常にあった。でも、今年は自分の肉体改造(体脂肪率の極限の絞り込み)が完全にハマって、筋肉のしなりのキレが上がったおかげで、『今年は、コートの奥へ長く打てば打つほど、綺麗にボールがネットの上を通る“通過点”自体も、劇的に高くなっている』という強い感覚がジャンプ中にある。打点自体が海外の壁の上へ完全に上がっているので、相手の強固なフロントのブロックに正面からシャットアウトされる本数が、今シーズンは劇的に減ったことをコートの中で自分が打っていてすごく感じられる。“通過点の高さ”が、今シーズンの自分のオフェンスにおける、“1番大きい最高の手応え”であり、自信に繋がっている」


視界と思考の広がり。
空中での時間の支配。
これが今年の髙橋藍の変化。


「“相手のブロックが完全に2枚、3枚と目の前に綺麗に揃った時の、自分のスパイクの打ち方の質が劇的に良くなった”。たとえ3枚ブロックがドンと目の前に完成していても、そこからの“ブロックの使い方”への引き出しが、自分の中で完全に確立されている。そこは打つ瞬間に迷いが無い」


世界の高さに、真正面から高さで対抗する。
それだけでは、日本は勝てない。
だから髙橋藍は世界の高さを読む。
ブロックの意識を動かす。
その一瞬の隙を突く。
そのすべてを、自分の身体で実行する。
考え抜いて、最後は自分の感性に従う。
髙橋藍の「知性と遊び心」は、まだ世界の壁を越える途中にある。


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