
5月18日に東京・国立競技場でゴールデングランプリ(以下GGP)が開催された。女子やり投の23年ブダペスト世界陸上、24年パリオリンピック™連続金メダリストの北口榛花(27、JAL)が64m16で優勝した。この記録は16年からほぼ毎年出場している北口が、GGPで投げた最高記録である。また、5月3日のダイヤモンドリーグ上海紹興大会の60m88(4位)から、記録を大きく伸ばすことにも成功した。どんな技術的な課題があり、それがどう改善されたのだろうか。
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64mは「ホッとできる記録」と北口
2位の上田百寧(25、ゼンリン)の記録が60m66。それを上回る61m41を、北口は1投目から投げていた。パリ五輪銀メダルのジョーアネ・デュプレッシ(27、南アフリカ)は59m51で3位、ブダペスト世界陸上銀メダルのフロルデニス・ルイスウルタド(34、コロンビア)は59m34で5位。5回目に64m16を投げた北口が、ライバル2人が伸び悩んだことにも助けられ、まったく危なげなく勝利を収めた。
「1投目に61mをすごい形(良くない形)で投げられたので、記録的には狙えるかな、と思って2投目以降の試技に臨みました。競技場によってタイミングがズレるのですが、そのタイミングを掴むのに時間がかかってしまいましたね。まだ完璧な形ではありませんが、それでも64mはホッとできる記録でした」
64m16の優勝記録は今季世界6位で、金メダリストとしては物足りない世界順位だ。ただ世界2位記録との差は74㎝と、大きく開いていない。
また北口は大学1年時からGGPに出場し続けているが、以下は過去に投げた記録。
16年:61m38(3位)
17年:59m59(5位)
18年:58m38(7位)
19年:60m00(2位)
20年:59m38(優勝)
21年:未開催
22年:63m93(優勝)
23年:61m34(4位)
24年:63m45(優勝)
25年:64m16(優勝)
今回が最高記録となり、体のコンディションや技術的課題が、そのときどきで異なるので何とも言えないが、今シーズンの今後に期待が持てる記録であることは確かだ。
試合の中で修正していく北口らしさ
しかし北口が今季目指しているのは、60㎝まで迫っているアジア記録(67m98=19年・呂會會・中国)だ。「今日の記録では満足できないです」という言葉にも力を込めた。
「投げられるエネルギーは間違いなく持っているのに、なかなかやりに伝わらないもどかしさがあります。そこがもっと良くなれば、必然的に記録も上がるはず。試合の中で修正していく自分らしさは、今日は出せたと思います。試合を重ねて自分らしい投てきを見つけていきたいです」
目下の大きな課題に、「やりが真っ直ぐに飛ばないこと」がある。第1戦のダイヤモンドリーグ上海紹興大会、今大会と1本も真っ直ぐに飛ばなかった。GGPでは2投目が「思い切り右に」に曲がり、6投目は左方向に回るように飛んだという。その要因の1つに助走の最後に右脚、左脚と着くタイミングを、思ったようにコントロールできないことがある。「右脚と左脚のタイミング1つで、やりの飛び方がかなり変わります」。
64m16の5回目も「縦のズレ」があったというが、「64mは久しぶりに(左右の脚をつくタイミングに)自分の“間”が感じられたので、来たな、というタイミングでは投げられました」と、少しは納得している。それがホッとできた理由だろう。
北口が記録にこだわる理由は?
北口は記録へのこだわりが比較的強い選手である。今季の目標はアジア記録と東京2025世界陸上の金メダルだが、昨年のパリ五輪優勝記録が、近年の五輪では低かったことも気にしていた。23年のブダペスト世界陸上では、「ワールドリーダー(そのシーズンの世界トップ記録を持つ選手)なのでプレッシャーがあった」と話したこともあった。
GGPの試合後のインタビューにも、次のように話していたのが印象に残った。
「次の試合は今季の持ち記録が高い選手と戦います。自分はオリンピック金メダリストとか、世界陸上金メダリストとか言われますが、その時に一番投げている人が強いと思っているので、挑戦者の気持ちで次は臨みたい」
北口の特徴は、間違いなく勝負強さにある。記録は持っていても大きな試合で勝てない選手も多く、金メダリストは記録を持っていることより価値があるという見方も多い。すでに2大会の金メダルを持っている北口は、記録を意識した方がモチベーションを上げられるのかもしれない。そして記録を出すためには、トレーニングや投てき技術が重要になる。
だから真っ直ぐに飛ばないやりについて、何度も言及する。
「完璧ではないのに64mまで飛んだので、そこは自信になります。まだちょっと真っ直ぐではなかったので、もう少しやりにエネルギーが乗れば、もうちょっと飛ぶかな。目指している記録に近づける」
シーズン2戦目のGGPで、課題解決の糸口がかなり明確に見えてきた。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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