
選択的夫婦別姓の議論が始まってから約30年。いまだに改姓するのは女性が95%という状況です。いまの国会でも成立は見通せません。仕事などに多くの支障が出ている女性たちの切実な声とは。
【写真を見る】「4つの名前を使い分け・・・」銀行ごとに変わる署名
「何がかわいそうなんだろう。『私は幸せだよ』って」別姓家庭で育った子どもは
決まらない選択的夫婦別姓。導入に慎重な理由として、子どもへの影響をあげる主張がある。夫婦別姓の家庭で育つ子どもには、実際にどんな影響があるのか。
小池真実さん(24)のお宅を訪ねた。
山本恵里伽キャスター
「表札、名前が2つ並んでるんですが?」
小池真実さん
「私の両親の名字がそれぞれあって、私と父の『小池』と、あと母の『内山』で書いてあります」
父親の小池幸夫さんと、母親の内山由香里さんは1991年に結婚。今は事実婚の状態だ。
真実さんの母親 内山由香里さん
「自分が小池と名乗ったときに、自分じゃないというか、違和感がすごくあって。子どもが生まれたら離婚しようかって」
山本キャスター
「両親が別姓・事実婚で何か周りから言われたことは?」
小池真実さん
「ないですね。私は生まれてからずっと小池で、母は内山というのが当たり前すぎて、何がかわいそうなんだろう。むしろ普通に過ごしてきたから、別に『私は幸せだよ』って」
高校時代、真実さんが所属していた放送部の活動で制作した映像がある。
【真実さんが高校時代制作した映像】
うちは3きょうだい。でも名字は全員小池。
真実さんの母親 内山由香里さん
「お兄ちゃんが産まれて、産まれたあとに籍を抜きました。お姉ちゃんがお腹にいるときにもう一回籍入れて、また産まれたときに籍を抜きました」
夫は妻の「改姓したくない」という思いを尊重し、子どもが産まれる度に結婚と離婚を繰り返すことに。だが、真実さんがそれに気づかないぐらい家族仲は良かったという。
山本キャスター
「子どもの姓を決めるときに揉めたりは?」
真実さんの母親 内山由香里さん
「全くないです」
真実さんの父親 小池幸夫さん
「うちの場合は、妻が子どもは小池姓。内山姓にしたいわけではない、という考えがあったので」
真実さんの母親 内山由香里さん
「私は自分は変えたくないけど、子どもを自分の姓にしたいと思ったことは一度もない」
山本キャスター
「家族の一体感が失われるという声もあるが?」
真実さんの父親 小池幸夫さん
「全く根拠がない。腹立たしい」
真実さんの母親 内山由香里さん
「家族の形を自分たちで選べるというのが大事。一方的にかわいそうとか、一体感がないとか決めつけないで欲しい」
10日、国会に招かれた専門家の一人は、夫婦別姓が家族に与える影響について、こう指摘した。
公明党推薦 文教大学(家族心理学)布柴靖枝 教授
「すでに導入された海外では別姓であっても、家族愛や夫婦愛は何ら変わることはなく、ましてや家族の一体感を失うとか、子どもの精神に悪影響を与えるという報告は、私が聞いたところではございません」
真実さんの母親 内山由香里さん
「30年以上ずっと待ち続けていて、なのに未だに『優先順位が低い』とか、『議論がもうちょっと』とか何で?って。もう十分でしょって」
小池真実さん
「離婚って結構大きい問題というか、普通の人が聞いたら『え?』となることを何回もしないと、(母は)内山ではいられなかった。そこまでしないとそれができない今って何なんだろうって」
旧姓の通称使用で“お困りごと解消”になるのか
一方で、旧姓の通称使用を拡大することで問題を解決しようとする動きもある。
日本維新の会は現在の夫婦同姓は維持しつつ、旧姓を戸籍に記載することで通称使用に法的効力を持たせる法案を提出している。
日本維新の会 藤田文武 前幹事長
「法的安定性もあるし、日常生活に対してのお困りごと解消という意味では、必要十分」
しかし、問題解決のためには選択的夫婦別姓の実現が必要だと訴える人たちがいる。
20年以上、弁護士として働く湯浅紀佳さんは16年前に結婚し、姓を夫の「國井」に変えたが、仕事では旧姓の「湯浅」を使用している。
弁護士 湯浅紀佳さん
「(姓を)変えなきゃいけないのが当たり前だと、そのときは思っていまして。あとは通称使用ができればそれでいいぐらいの、安易な気持ちだったんですよね」
すると4年前、仕事で大きな支障が生じた。
所属事務所がもつアメリカオフィス代表就任の話が持ち上がった。
ビザの申請は、パスポートと同じ「國井」でしかできないが、その他の必要な書類は全て「湯浅」の表記になっていたため、ビザの取得は認められなかった。
弁護士 湯浅紀佳さん
「日本での弁護士としての業績を証明して、認めてもらって取るビザなんですけど、出せるものが『湯浅』しか当然ないので、『なんですか?』みたいな感じになってしまって」
村瀬健介キャスター
「アメリカのビザ当局にとっては、湯浅さんの弁護士実績が認識されない状態になっている?」
弁護士 湯浅紀佳さん
「そうですね。偽名じゃないですけど、名前2つ持ってる怪しい人みたいな扱いを途中で受けたりとか」
「湯浅」という旧姓が使えないことに直面して、こう感じたという。
弁護士 湯浅紀佳さん
「そうなって初めて『自分も名前変えちゃったんだな』と。(通称使用によって)仕事で(姓を)変えなくて済んだので、何か(旧姓が)残ってる気がしてたみたいな。絶対に変えないと結婚できないっていうのは、本当にアイデンティティへの侵害だと思いますし、それは男性女性問わず、非常にひどい状態なんだなって思うんですよね」
村瀬キャスター
「ご自身にとって本名は何だというふうに認識されている?」
弁護士 湯浅紀佳さん
「うーん…難しいですよね。でも自分としては、湯浅紀佳なんだと思う」
「毎日が困りごと」「名前が増殖」海外在住女性の叫び
日本企業の海外展開支援などをする団体で、インドネシアの事務所長として勤務する斎藤和子さんも、旧姓の通称使用の拡大に疑問を持つ一人だ。
インドネシアでは書類に戸籍名を書くことが求められるが、旧姓の斎藤で仕事をしているため、旧姓を併記せざるを得ない。
斎藤和子さん
「4つの名前を使い分けていることになります」
パスポートの姓の欄には「MASUDA(SAITO)」と表記され、サインは「斎藤和子」を使っている。
インドネシアの行政関連の書類には「SAITO」の表記はなく、「KAZUKO MASUDA」のみ。
一方で、銀行口座の名義は「SAITO」も表記されるが、勤務先で使う銀行では、「Kazuko Masuda(Saito)」。日常生活で使う銀行では、「Kazuko Masuda Saito」。さらに…
斎藤和子さん
「銀行口座の方の括弧は、隙間なく、すぐに括弧だったのですけれども、労働許可証の方はデータできたものをクリックしたところ、括弧の前に半角スペースがあった」
山本キャスター
「それって全部斎藤さんご自身で覚えているのですか」
斎藤和子さん
「覚えてないですし、覚えるのも一苦労です。いま、自分がここでどう名乗るべきか、いまここで自分は何と書くべきか、このサインでいいのか、そういうことをいちいち考えなくてはいけない。毎日が困りごと。どんどん名前は増殖していっています」
山本キャスター
「『名前が増殖する』という言葉を初めて今、耳にしたのですけど」
斎藤和子さん
「生産性、激下げなんですよ。こんなことしているより、普通に仕事したい。ものすごい重りつけて、走らされているみたいな」
斎藤さんは旧姓の併記について。
斎藤和子さん
「旧姓併記というのは、はっきり言って代替。出来の悪い代替物でしかなくて、選択的夫婦別姓の代わりに旧姓併記を拡大してほしい、という方はいらっしゃらないと思う。こちらとしてはシンプルに改姓したくない。なぜ使い分けたくないかと言われたら、使い分けたくないからだとしか言いようがない。
むしろ、私の方が逆に伺いたいのは、どうして改姓させたいのか。どうしてそこまで使い分けさせたいのかについて、もっと取り上げられるべき。私たちは十分、言ってます」
「フェアじゃない状況をずっと女性に強いていた」妻の姓に改姓した男性は
選択的夫婦別姓を早期に実現すべきと声をあげる男性がいる。
一級建築士の秋山怜史さんは、妻と子ども2人の4人家族だ。
秋山さんは2024年3月、大きな決断をし、妻の姓に変えた。建築士の免許には、秋山を旧姓として表記している。
妻の旧姓に改姓 秋山怜史さん
「妻の方は自分の元々の姓にこだわりがあったし、強いアイデンティティを持っていて、この家族で生きていくと考えたときに、最善の策として、妻の旧姓に戻すというのが家族としていいことだと思って、僕の方から提案しました」
山本キャスター
「気づいたタイミングとかあったのですか」
妻の旧姓に改姓 秋山怜史さん
「選択的夫婦別姓、もっと本当は早く実現すると思っていたが、一向に実現しない。なかなかその当時も、法案提出までいかない。変えるタイミングがなくなるなと思って、思い切って変えましょうと」
結婚8年目、引っ越しのタイミングで改姓した秋山さん。すでに名字が変わっていれば、子どもの転校先でも、影響は少ないと考えたという。
だが、改姓するにあたっては、一度離婚をして再婚しなければならなかった。仕事上で様々な面倒がかかることになった。
妻の旧姓に改姓 秋山怜史さん
「建築士の免許の書き換えもタイムリーにできなくて、いくつか書き換えなければいけない書類があって、全部終わるまでにやっぱり半年ぐらいかかって。会社の経営と、NPOの経営、さらに国家資格を持っているので、それも全て手続きをして、変えていかなければいけない」
山本キャスター
「それを経験した上で、多くの場合女性が改姓をしているじゃないですか。女性に対して何か感じましたか」
妻の旧姓に改姓 秋山怜史さん
「非常に申し訳ないことをずっとやっていたんだな、というのは強く感じました。この煩雑な改姓による手続きは全て、ほとんど女性が請け負っていた。フェアじゃない状況を、ずっと女性に強いていたというのは、非常に強い反省が私自身もありました」
改姓して秋山さんが感じたことは。
妻の旧姓に改姓 秋山怜史さん
「男性というだけで、下駄履いて生きているようなもの。あらゆるところで、男性の方がスムーズに生きやすい世の中になってしまっている。下駄を脱ぐことを、男性側が恐れているのではないかと、すごく感じます。本当の人間関係、家族関係、フェアな公正な家族関係を築くためには、下駄を脱ぐ勇気を男性側が持つべきなんだろうな、と強く思います」
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