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うつ病治療、「医師任せ」から共同意思決定へ 新ガイドラインが示す診療改革

2026-08-03 17:25:31

国内で精神疾患により外来受診する患者は約576万人に上り、うつ病や双極性障害などの気分障害は約27%を占める。働く人が心身の不調を抱えながら勤務し、本来の力を発揮できない「プレゼンティーイズム」による経済損失は、年間約7.3兆円との推計もある。うつ病は個人の健康問題にとどまらず、企業経営や社会全体の生産性にも関わる課題だ。

こうしたなか、日本うつ病学会は2025年12月、「うつ病診療ガイドライン2025」を公表した。2016年版から約9年ぶりとなる全面改訂で、従来版への追記ではなく、国際的なガイドライン作成手法に沿って科学的根拠を検証し、ゼロベースで再構築した。

塩野義製薬が2026年7月1日に開いたプレスセミナーに登壇した、関西医科大学医学部精神神経科学講座主任教授の加藤正樹氏に、新ガイドラインが目指す診療の姿を聞いた。

治療方針を「一緒に考える」

――今回の改訂で、最も重視した点は何でしょうか。

「うつ病診療を、医療者が治療方針を決めるものから、患者さんと医療者が対話しながら一緒に治療を考えるものへと進めることです」

治療薬の選択肢が増えてきた一方で、治療結果への満足度は必ずしも十分ではない。医師を対象とした調査では、薬剤貢献度が79.0%であるのに対し、治療満足度は40.8%にとどまった。また、患者からは「早く症状を改善したい」「自分の話をもっと聞いてほしい」といった声もあるという。

加藤氏は、薬剤の選択だけでなく、患者と医療従事者のコミュニケーションが重要だと指摘する。

「うつ病は症状や経過が一人ひとり異なり、すべての患者さんに同じ治療が適しているわけではありません。本人の希望や生活背景、価値観を共有しながら一緒に決めることが、より納得感のある治療につながります」

新ガイドラインは、治療法を一律に当てはめる規範ではなく、医療者が「患者は今どの段階にあり、次に何を考えるべきか」を整理するための「診療の地図」として設計された。症状の重さに加え、児童思春期、周産期、老年期といったライフステージや、治療段階などを踏まえて方針を検討する。

症状の変化を数値で確認

――共同意思決定(SDM)と測定に基づく診療(MBC)によって、診療はどう変わりますか。

SDMでは、病状や治療の選択肢、期待される効果、副作用などを医療者と患者が共有し、本人の価値観や希望を踏まえて治療方針を決める。患者が治療に納得しやすくなり、継続にもつながることが期待される。

一方、MBCでは、PHQ-9やQIDSなどの評価尺度を用い、症状や治療反応を定期的に確認する。従来は「何となく良くなった」「あまり変わらない」といった主観的な把握にとどまる場合もあったが、数値化によって変化を共有しやすくなる。

「効果が十分でない治療を漫然と続けることを防ぎ、次の治療を検討しやすくなります。患者さんには症状の強さだけでなく、何に一番困っているのか、どのような生活を取り戻したいのか、仕事や家庭への影響、副作用への不安なども遠慮なく伝えてほしいと思います」

新たな治療選択肢も登場

――従来とは異なる作用機序を持つ薬の登場を、どう捉えていますか。

従来の抗うつ薬は、セロトニンなどのモノアミンに作用する薬剤が中心だった。近年は、これとは異なる作用機序を持つ治療薬も登場している。

ズラノロンはGABA受容体に作用する医療用医薬品で、既存薬とは異なる仕組みを持つ。加藤氏は「うつ病は症状や経過、治療への反応が患者さんごとに異なるため、選択肢が増えることは、一人ひとりに合った治療を検討しやすくする点で意義があります」と話す。

ただし、新ガイドラインが目指すのは、既存薬を特定の新薬へ置き換えることではない。医療者が科学的根拠に基づいて選択肢を示し、患者が希望や不安、生活上の優先事項を伝え、双方が納得して治療方針を決める診療への転換だ。医療用医薬品の使用については、患者の状態を踏まえて医師が判断する。

「薬が合わない場合でも、治療には次の選択肢があります。焦らず段階的に取り組むことが大切です。自己判断で治療を中断せず、不調が続く場合には一人で抱え込まず、医療機関に相談してほしいと思います」

うつ病治療は「医師に任せるもの」から、患者自身も参加して「一緒に決めるもの」へと変わり始めている。

 

※本記事は、塩野義製薬が開催したプレスセミナーの内容と、加藤正樹氏への書面取材を基に編集部が構成した。特定の医薬品や治療法の使用を推奨するものではない。治療については医師などの医療従事者に相談する必要がある。

情報提供元: マガジンサミット